生活習慣病とは
食習慣、運動習慣、休養の取り方、飲酒や喫煙等の嗜好などの生活習慣が「健康的とは言えない」状態であるとき、発症する疾患を「生活習慣病」と呼びます。「高血圧」「糖尿病」「脂質異常症」「高尿酸血症」などがこれにあたります。
こうした生活習慣病は自覚症状がほとんどなく、健康診断によって発見されることが多くなっていますが、症状が無いからと言って放置してしまうと、動脈硬化をはじめとして様々な障害を併発し、重大な病気につながってしまいます。その一方、生活習慣病は予防したり進行を抑えたりすることができるものです。当院では、地域の「かかりつけ医」として、一人ひとりの患者様に合わせ生活習慣改善のサポートや薬による治療を行っています。
生活習慣病が引き起こす症状として最も注意しなければならないものの一つが動脈硬化です。これは血管が肥厚して動脈が弾力を失って固くなったり、内径が狭くなって詰まりやすくなったりするもので、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞や脳出血などの重篤な病気の原因となります。初期の段階であれば食習慣の改善や運動習慣の見直しなどで、大きく改善することも可能です。
健康診断などで異常を指摘された方、また以下のような項目に該当する方は、一度お早めにご受診ください。
- 40歳以上である
- 20歳の頃より10kg以上体重が増えている
- 喫煙習慣がある
- 比較的、飲酒量が多い
- 清涼飲料水を飲むことが多い
- あまり運動をしない
- 車での移動が多く、歩くことが少ない
- 仕事などでストレスが溜まりやすい環境にある
- 睡眠時間が十分でない、夜中に目が覚めてしまう
- 朝食抜きや深夜の食事、間食など食事が不規則になりがちである
- 脂っこい料理やファストフード、インスタント食品をよく食べる
- など
糖尿病について
糖尿病とは、血液中に糖(ブドウ糖)があふれてしまうもので、過剰な糖がタンパク質と結びつき、有害物質を発生させて、血管を老化させ、傷つけてしまう病気です。障害は全身の大小の血管に及びます。
大きな血管に障害が及ぶと、動脈硬化などを引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞に至ることもあります。また微細な血管にも障害が及びます。すると以下のような「糖尿病3大合併症」という重篤な病気を併発してしまいます。
糖尿病3大合併症
糖尿病網膜症 |
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網膜を走行する血管に障害が生じ、最悪の場合失明する危険性があります。実際に、日本の中途失明原因の代表的な病気となっています。 |
糖尿病腎症 |
腎臓機能に障害が生じ、余分な水分や老廃物を体外に排出できず、透析が必要になる場合もあります。日本の血液透析の原因第一位で、糖尿病が原因で年間約1万3千人の方が血液透析療法の導入を受けているとされています。 |
糖尿病神経障害 |
高血糖による神経細胞の変化や、動脈硬化による神経細胞への血流が滞ることで神経に障害が起こり、最悪の場合、下肢切断や全身性の感染症など命に関わる場合もあります。 |
血液中に糖化あふれてしまう原因としては、インスリンという膵臓から分泌されるホルモンが関係しています。インスリンは血液中の糖を取り込んでエネルギーに変換したり、脂肪として蓄えるようにしたりする働きを持っています。このインスリンが分泌されにくくなったり、働きが鈍ったりすることで、血液中の糖が過剰になってしまうのです。
そうしたことが引き起こされる原因の多くは、生活習慣によると考えられており、特に食べ過ぎや運動不足による「肥満」が、インスリンの働きに障害を与えているとされています。ですので、糖尿病の予防や進行の抑制には、食習慣や運動習慣の改善がとても大切になります。現在、糖尿病は完治の難しい病気なのですが、生活習慣の改善により血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)をコントロールすることで、通常と変わらない生活を送ることが可能です。
糖尿病への取り組みでまず大切なのは、血糖値が高めな方は予防をしていくこと、糖尿病と診断されてしまった方は、合併症を引き起こさないようにすることです。当院では、食事療法や運動療法などを患者様それぞれに合わせて丁寧にご指導いたします。これにより血糖値が正常になる患者様も多くいらっしゃいます。
食事療法や運動療法で血糖値が改善しない場合、あるいは合併症のリスクがあり、早急に血糖値をコントロールする必要がある場合は、薬物療法をおこないます。こちらも当院では患者様それぞれの状況をみつつ、適切に行っていきます。
高血圧
高血圧とは血圧が高いことを指しますが、たまたま測定したときに高かっただけでは「高血圧症」とは言えません。診察室での繰り返しの測定で、最高血圧が140mmHg以上、あるいは最低血圧が90mmHg以上の場合、高血圧と診断します。(診断基準は適宜改訂されます)
高血圧状態が長く続くと血管は常に張りつめた状態になり、次第に内側に厚く、硬くなり、血管本来の弾力性が失われ、動脈硬化に至ります。それは大きな血管でも、小さな血管でも起こり、脳出血や脳梗塞、大動脈瘤、腎硬化症、心筋梗塞、眼底出血などを引き起こします。
高血圧の原因としては、腎臓や甲状腺などにおける他の病気によるもの(二次性高血圧と言います)もありますが、原因がはっきりとはわかっていない場合も多く、遺伝的な因子や食事をはじめとした生活習慣に起因していると考えられています。原因となる生活習慣としては、食事における過剰な塩分摂取や野菜・果物(カリウムなどのミネラル)不足、肥満、過剰な飲酒、他にも精神的ストレス、自律神経の調節異常、運動不足、喫煙などが影響しているとされています。
高血圧の治療では、まず食生活、特に塩分のコントロールが重要です。塩分を摂り過ぎると、それを薄めようと体内に水分が蓄積し、血流量が増加、血圧が上昇します。1日の塩分量は6g未満にすることを目指します。また肥満も血圧上昇の原因となり、さらに心臓に負担をかけ、全身の動脈硬化を引き起こします。食べ過ぎや偏食をしないようにし、特に外食やインスタント食品には気を付けましょう。
血行の改善につながる運動は、血圧低下に有効で、減量することで肥満防止にもなります。ただし高血圧の重症度や合併症によっては、運動を制約する場合もありますので、医師にご相談ください。また喫煙は血管が収縮し、血圧が上がりやすくなります。さらに血液がどろどろになって凝固しやすくなり、動脈硬化の原因にもなりますので、禁煙することを強くお勧めします。
生活習慣の見直しを図っても血圧が下がらない場合、また合併症があり、速やかに血圧を下げる必要がある場合は、薬物療法によって、血圧をコントロールします。使われる薬剤としては、体内にある血圧を上げる物質の作用を抑える薬や、その物質が作られるのを阻害する薬、余分な水分を体外に出し、血液量を減らすことで血圧を下げる薬、その他、血管を拡張する薬や、心臓の拍動働きを抑えることで、血圧を下げる薬などがあります。当院では患者様一人ひとりの症状や身体の状況に合わせて参ります。
脂質異常症(高脂血症)
脂質は細胞の膜やホルモンになり、中性脂肪は体を動かすエネルギー源となるなど、もともと重要な栄養素の一つですが、これらの血液中における濃度が、基準から逸脱してしまうと「脂質異常症」と呼ばれる状態となり、動脈硬化などの原因となってしまいます。(コレステロールが低すぎる場合も、血管が細く弱くなり、脳出血を引き起こすなどの悪影響が出る可能性があります)
以前は高脂血症と呼ばれていましたが、HDL(善玉)コレステロールが低い状態も異常であるため、現在は脂質異常症と呼ばれています。基準は以下のように定められています。(診断基準は適宜改訂されます)
- LDLコレステロール値≧140mg/dL(高LDLコレステロール血症)
- 中性脂肪≧150mg/dL(高トリグリセライド血症)
- HDLコレステロール値<40mg/dL(低HDLコレステロール血症)
LDL(悪玉)コレステロールは体の隅々までコレステロールを運び、HDL(善玉)コレステロールは体に余ったコレステロールを回収します。このバランスが崩れると、脂質代謝異常が起こります。中性脂肪(トリグリセライド)の過剰は肥満の原因となります。
脂質異常が続くと血管の内壁にコレステロール等の脂質がくっつくことで血管の内径が狭窄し、高血圧および動脈硬化を促進してしまいます。また糖尿病もお持ちの方は、血中の中性脂肪がさらに増えるなどし、動脈硬化による脳梗塞や心筋梗塞をさらに発症しやすくなります。
脂質異常症を引き起こす要因しては、脂質の吸収や貯蓄、消費のバランスが崩れることだと考えられています。バランスが崩れる原因としては、肥満やアルコールの過剰摂取などの生活習慣を起因したものが挙げられていますが、他に遺伝的要因や更年期、糖尿病や内分泌疾患なども原因として考えられています。
脂質異常症の改善にあたっては、バランスの良い食事を心がけるとともに、不飽和脂肪酸を多く含んだ食べ物を摂取することが良いとされています。具体的には、イワシ・サバ・アジなどの青背の魚、豆腐・納豆・高野豆腐などの大豆製品を積極的に摂るようにします。さらに中性脂肪の改善のためには、糖質やアルコールを摂取し過ぎないようにすることが大切です。
また適度な運動を行うことも重要です。肥満を改善し、さらに善玉コレステロールを増やすことで、脂質異常症の改善につながります。この他には、喫煙は善玉コレステロールを減らし、悪玉コレステロールの酸化を促進して動脈硬化を進行させてしまいますので、禁煙することをお勧めします。またストレスホルモンにはコレステロールを増やす作用があるので注意が必要です。睡眠を十分にとるようにし、なるべくストレスを溜めないことが大切です。
食事習慣や運動習慣の改善だけでは、コレステロール値などをコントロールするのが難しい場合、薬物による治療を行います。用いる薬としては、主にスタチン系薬を中心に、EPA・DHA製剤や漢方薬などがあります。当院では、それぞれの患者様に合わせて、食事療法・運動療法・薬物療法を行います。
高尿酸血症(痛風)
高尿酸血症は、血液中の尿酸の濃度が基準値より高くなっている状態を指します。尿酸はプリン体を分解したとき、また細胞の新陳代謝の際に産出されるものです。尿酸は水に溶けにくいため、血液中で針状に結晶化します。それが関節などに蓄積すると炎症反応が起こり、非常な痛みを伴います。これが「痛風」と呼ばれているものです。
結晶は特に足の指の関節に溜まることが多く、それ以外にも足の関節や足の甲、アキレス腱のつけ根、膝の関節、手の関節にも起こる場合があります。外耳の一部に痛風結節と呼ばれるものができたり、尿路結石となって激痛を伴う発作を起こしたりする場合もあります。
尿酸のもととなるプリン体とは、運動や臓器を動かす際のエネルギーとなるもので、非常に重要な物質ですが、過剰に摂取すると血液中の尿酸の量を高めてしまうことになります。高尿酸血症、痛風の予防には、プリン体を多く含む食べ物の摂り過ぎなどに注意する必要があります。
プリン体を多く含む食べ物としては、レバー、魚卵類、えび、かつお、いわし、干し椎茸などが挙げられます。またビールには多くのプリン体が含まれていますが、ビール以外でも、アルコール自体に尿酸値を上昇させる作用がありますので、飲酒には注意が必要です。
高尿酸血症の改善には、こうした食習慣の改善に加え、運動による肥満の改善も大切です。さらに尿酸降下薬の内服によって血液中の尿酸値をコントロールする薬物療法を行います。痛風の発作が起きている場合には、初期の段階であれば、コルヒチンという薬を用います。痛みが強いときは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の投与が有効です。他には、局所麻酔剤入ステロイド関節内注入という治療を行う場合もあります。
ちなみに高尿酸血症は、男女比では9:1と、圧倒的に男性に多い病気となっています。これは女性ホルモンに腎臓から尿酸の排泄を促す働きがあるためで、女性ホルモンの分泌が減少していく50歳以上では、傾向として男女差が縮まる傾向にあります。
メタボリックシンドローム
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)とは、「内臓脂肪型肥満」に高血圧や脂質代謝異常、高血糖の内、二つ以上が組み合わさった状態を指しています。過食などの食生活の乱れや、運動不足が原因となって引き起こされる「肥満」は、動くと息切れがする、腰や膝の関節が痛む、などの障害が現れ、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の原因となる場合もあります。
さらに注意が必要なのは、腹腔内に脂肪が蓄積された「内臓脂肪型肥満」なのです。これまで脂肪組織は、余ったエネルギーを蓄積する場所と考えられてきましたが、近年、脂肪組織には、人間の生体維持にかかわる各種の物質(アディポサイトカイン)を合成・分泌する役割も担っていることがわかってきました。
これらは血液中の糖質や脂質、あるいは血圧のコントロールなどに大きな影響を与える生理活性物質ですが、内臓脂肪が異常に増えると、この生理活性物質にも異常が起き、インスリンを効きにくくさせたり、血液中の脂質を増やしたり、血圧を上昇させたりするなど、健康に様々な悪影響を及ぼしてしまうのです。
メタボリックシンドロームは、高血圧症や脂質異常症、糖尿病等を併発して、さらに動脈硬化などを引き起こし脳梗塞や心筋梗塞など重篤な疾患の要因となります。食習慣や運動習慣を見直して、肥満を改善していくことが、健康な生活につながります。