予防接種について

予防接種画像

予防接種は、人間の体に備わる免疫システムを利用したワクチンを接種することで、ウイルスや細菌による感染症への罹患や、重症化を予防するものです。

ワクチンの種類としては、以下のようなものがあります。

生ワクチン 生きたウイルスや細菌の毒性を最大限弱め、病原体をそのまま使用したもの
不活化ワクチン ウイルスや細菌を加熱処理、フェノール添加、ホルマリン処理、紫外線照射などで無害化したもの
トキソイド 細菌の毒素だけを取り出してホルマリン処理を行い、無毒化したもの

当院で行っている予防接種

当院では主に以下のワクチンによる予防接種を行っています。事前に電話予約をお願いいたします(小児のワクチン接種は行っていません)。

インフルエンザ

インフルエンザは、のどの痛みやくしゃみ、鼻水、咳、頭痛など風邪と似た症状を呈する感染症ですが、急激に発症し、38℃以上の高い発熱があって、関節痛や筋肉痛などの全身症状も現れるのが特徴です。

通常の免疫力があれば、1日から、長くても10日前後で回復しますが、高齢の方、あるいは呼吸器や循環器に疾患のある方、糖尿病のある方などは、インフルエンザに罹ると重症化する危険性があります。

さらにインフルエンザは、様々な合併症を引き起こす場合もあります。たとえば高齢の方が肺炎を併発する例が多く見られます。これはインフルエンザウイルスに感染すると、気道の表面の細胞が壊され、肺炎球菌などの細菌が肺に侵入しやすくなるためです。肺炎は重篤化すると命に関わることも少なくありません。インフルエンザの予防接種は、このような合併症を避ける意味もあります。

ウイルスは時とともに変異していくもので、インフルエンザも例外ではありません。ワクチンもそれに合わせて作られますので、毎年流行する前に、その年のウイルスの株に合わせたワクチンを接種する必要があります。

ワクチン接種から予防の効果が発揮されるまでには、約2週間かかるとされています。また効果の持続期間が約5カ月と考えられていますので、11月中旬くらいに接種するのが望ましいでしょう。

肺炎球菌

日本人が罹る肺炎の中で、最も多いのが「肺炎球菌」によるものです。肺炎は高齢者(65歳以上)の死亡原因として、非常に大きな割合を占めるものですので、ワクチンによって肺炎球菌への感染を防ぐことは、健康を守っていく上では大変有効と言えるでしょう。

肺炎は一度かかってしまうと、さらなる体力低下を招き、免疫力もより低下してしまいます。また一度肺炎で傷ついてしまった肺は、元に戻らないことが多く、肺炎を繰り返すようになり、生活の質を低下させてしまいます。さらに肺炎球菌は、髄膜炎や中耳炎を引き起こす原因ともなります。

高齢の方、基礎疾患をお持ちの方は、積極的には肺炎球菌ワクチンを接種することで、そうしたリスクも低減させることができます。また、インフルエンザに罹患すると、肺炎球菌に感染しやすくなりますので、インフルエンザの予防接種も併せて受けおくことをお勧めします。

MR(麻疹風疹混合)ワクチン

「MRワクチン」は、「麻疹」および「風疹」の予防を同時に行うワクチンで、麻疹(Measles)と風疹(Rubella)の頭文字を取ったものです。

麻疹は、いわゆる「はしか」とも呼ばれるもので、基本的には10代~20代に多い感染症ですが、近年では成人でも流行する傾向にあり、成人で罹患すると重症になることが多いとされています。

風疹は「3日はしか」とも呼ばれ、麻疹(はしか)と同じくお子様に多い病気ですが、やはり成人でかかると重症になることが多く、脳炎や血小板減少性紫斑病を併発する危険があります。また風疹は、妊娠初期の妊婦の方が罹患すると、赤ちゃんに「先天性風疹症候群」が現れ、耳や眼、心臓等に異常をきたす場合がありますので、妊婦の方は特に注意が必要です。

MRワクチンは、麻疹と風疹それぞれの毒性を低減したウイルスを使用した生ワクチンで、2回接種することで効果が高まります。1回目と2回目は基本的に4週間の間隔をあけるようにします。

現在の日本では、これまでの医療行政における予防接種の経緯を踏まえ、30歳代後半から50歳代の男性は風疹に対する免疫が不足、またはない場合が多いと考えられています。成人してからの罹患で重症化しないためにも、また周囲の妊婦さんへの感染リスクを軽減するためにも、過去に麻疹や風疹に罹ったことがない、また予防接種を受けていない方は、MRワクチンの接種をお勧めします。

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎・ムンプス)

「おたふくかぜ」はムンプス(mumps)ウイルスによる感染症で、咳やくしゃみによる飛沫感染や、接触感染で広がります。発症すると耳下腺(じかせん)や顎下腺(がっかせん)などの唾液腺(だえきせん)に腫れや発熱がみられるのが特徴です。

おたふくかぜは、主に子供が罹ることが多い病気ですが、成人でも罹ることがあり、その場合、重症化しやすく、さらに精巣炎や卵巣炎などの合併症が引き起こされる頻度も高くなります。思春期以降に発症すると、不妊のリスクともなります。またまれにですが、膵炎や髄膜炎、腎炎、感音性難聴などが引き起こされる場合もあり、注意が必要です。

こうした重篤な合併症を防ぐためにも、ワクチンは有効ですが、日本では、おたふくかぜワクチンの接種率が約40%と低く、今後も流行する可能性があります。成人の方で、おたふくかぜに罹ったことが無い方、ワクチンを接種したことがない方は、ワクチン接種することが望ましいでしょう。おたふくかぜワクチンは生ワクチンで、麻しん風しんワクチン(MRワクチン)と同時に接種することも可能です。

水ぼうそう(水痘)

「水ぼうそう」は、主に小児に多く見られる感染症で、水痘帯状疱疹ウイルスが原因となります。感染力が強く、空気感染するため、学校などで集団発生することも少なくありません。ただし、大人でも罹る可能性があり、その場合、重症化しやすいと言われています。

症状としては37~38度程度の発熱があり、体幹や顔に紅斑が現れ、水疱(水ぶくれ)となります。その後、乾いてかさぶたになり、3週間ほどで剥がれます。基本的に発症から7~10日で治癒しますが、熱が長く続いたり、発疹が腫れて化膿したりすることがあります。また、脳炎や肺炎を併発する場合もあり、入院しての治療が必要になる場合もあります。

一度、水痘に罹ると、病気が治った後も、水痘帯状疱疹ウイルスが神経などに潜伏し、成人や高齢になって、免疫が低下した際に、神経にそって症状が現れる「帯状疱疹」という病気を発症させる場合があります。50歳以上の方では、水痘ワクチンを接種によって、帯状疱疹の予防にもつながりますので、接種することをお勧めします。

帯状疱疹ワクチン

帯状疱疹は水痘と同じく、水痘帯状疱疹ウイルスが原因となる病気です。初めてこのウイルスに感染したときに発症するのが水痘で、何年も経ってから、神経などに潜伏していたウイルスが再び活性化し、発症するのが帯状疱疹です。50歳を過ぎたぐらいに発症することが多くなっています。
再発する理由として、加齢や過労、ストレス等による免疫力の低下が考えられています。神経に炎症を起こして痛みが現れ、炎症がひどい場合は、疱疹が治った後も痛みが続くことがあります。3か月以上痛みが続くものを帯状疱疹後神経痛と呼び、高齢者におけるリスクが高くなっています。

他にも目や耳の神経が障害されると、めまいや耳鳴りなどの合併症が現れ、重症化すると視力低下や失明、顔面神経麻痺など重い後遺症が残る危険もあります。そういったリスクを回避するためにも、特に50歳以上の方には帯状疱疹ワクチンの接種をお勧めします。

帯状疱疹ワクチンには2種類あります。一つはウイルスを弱毒化した生ワクチンで、これは水痘ワクチンでもあります。接種は1回です。もう一つは不活化ワクチンである「シングリックス」で、これは帯状疱疹予防のために作られたワクチンで、2回接種するものです。

また免疫力が低下している方には、生ワクチンは使用できません。また、生ワクチンは他のワクチンとの期間は4週間空けることが必要となります。不活化ワクチンであるシングリックスは、帯状疱疹の予防には、より効果が高く、インフルエンザや肺炎球菌など他の不活化ワクチンとの同時接種も可能となっています。